小川哲「地図と拳」
2022年6月集英社発行
第168回直木賞受賞作。
640項に及ぶ大作。
帯には「日露戦争前夜から第2次大戦までの半世紀、満洲の名もない都市で繰り広げられる知略と殺戮。日本SF界の新星が放つ、歴史×空想小説」とある。小川哲さんはSF作家なのか。
題名の「地図と拳」。
なるほど地図は、人間の理性とあくなき野望の象徴なのかもしれない。
物語の舞台である満州。
夢と野望は大勢の犠牲をうむことになるのだが、新たな地図を描こうとした人たちの思いはとても興味深い。
作品にはさまざまな人物が登場し、次々と死んでいく。
それぞれの人生の一場面が丁寧に描かれているので、実在の人物だと錯覚を覚えるほどだ。
一人一人に夢があり、理想がある。すべての人に大切な生活がある。
だから…戦う。
日本が戦い続ける先には敗戦しかないことを冷静に分析する人々も登場するのだが、彼らの理性では戦争は止められない。
では、どうすればいいんだろう。
小説自体はとても面白かった。
けれど、動き始めた大きなうねりって止められないよなぁという少々、絶望的な感想しか浮かばなかった。
社会の小さな変化に敏感になることが大事なのかなぁ。