しずくの日記 

読書記録や日々のあれこれ

高知東生「土竜」

2023年1月30日光文社刊

 

俳優・高知東生の小説デビュー作。

6編の短編からなる本作は、自身をモデルにした主人公の出生の秘密、ヤクザの父、自死した母、薬物による逮捕までが綴られている。

「本当に自分で書いたのか? ハハハ、読んでいただいた方、ほぼ全員からそう言われるんです。でも、本当に自分で書きました(笑)。何度も書き直しはありましたが」。

と著者が答えているネット記事を読んだ。

「本当?」 そんな“失礼なほめ言葉”を抱かずにはいられない作品だった。

舞台は昭和の高知。時代背景や風俗が細やかに描かれ映画的。主人公たちが交わす土佐弁も情感を高めている。

猥雑なものと純粋なもの、清濁あわせもつ人間というもののどうしようもない哀しさに胸をうたれた。

映画を見終えたような読後感だったが、強いて言えば、すべてがうまくまとまりすぎているようにも感じた。6編ともにすべてちゃんとしたオチがあり、伏線もきっちり回収される。きっちりされすぎ、というのはぜいたくか。

次作も読んでみたい。