しずくの日記 

読書記録や日々のあれこれ

多和田葉子「白鶴亮翅」

朝日新聞」に2022年2月1日から8月14日まで連載された作品。2023年5月朝日新聞出版から発行。

あらすじ:ベルリンに暮らす日本人女性・美砂は、隣人のドイツ人男性Mさんに誘われ太極拳教室に通い始める。先生は中国人。生徒はドイツ人のほかロシア人やフィリピン人などさまざまな文化的背景を持った人たちが通っている。彼らとの交流を通して、美砂は日独の戦争の歴史や国、民族、境界について考えを広げていく。

感想:多和田葉子さんの作品を読むのはこれが初めて。面白かった。ベルリンに行ったことがあるし、太極拳も習ったことがある。さらに私が常々関心をもっている「境界」について主人公があれこれ考える点に親しみを感じた。

日本に住んでいると、つい「普通、こうだよね」と同調性を周囲の人に期待してしまう。しかし他民族が暮らすベルリンでは、隣人も習い事の教室で出会う友人たちもみんな異なる文化を背負って集っている...とここまで書いたけれど、なんか違うな。考えてみれば日本だって異なる価値観を持った個の集合体だ。どこだって一緒。

 小説の中で美砂は、仲良くなった隣人Mさんとの関係にわずかなヒビを入れてしまった(と美砂自身が感じる)くだりがある。『緩く張られた糸だけから成り立っている今の生活を変えたいという願いがわたしのどこかで燻っていて、そこからくる焦りが、自分が無知のまま世界史の中に放り込まれているという焦りと重なって、これからどうしたらいいのか、その答えを無意識のうちにMさんに求めていた』 

他人との距離感を測るのは難しい。踏み込みすぎて、せっかく築いた関係にヒビが入ってしまうこともある。けれど難しいのは当たり前。そんなものだよな、とも思う。

多和田葉子さんの別の作品も読んでみよう。